一時所得か雑所得か、それが問題だ
個人の所得は10種類に区分され、課税されます。*1
先日の記事では、いろいろな所得がどの区分にあたるのか例を挙げました。
この記事で挙げた所得について、一時所得か雑所得か判別しにくいものが多いように感じます。
専門家の間でも判断が難しい事例もあるようで、一時所得か雑所得かが争われた裁判において一審と二審で判断が逆転したこともあります。
一時所得は最大50万円の特別控除があり、50万円までは実質的に課税されないのですが、雑所得は特別控除がありません。
ある所得が小額の場合、一時所得だと特別控除が使えてお得ではあるのですが、一時所得の範囲は限定的です。
目次
一時所得の定義
一時所得の定義は所得税法第34条にあり、以下のすべての条件を満たす必要があります。
(1)利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得に該当しないこと。
(2)営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること。
(3)労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと。
(1)の条件にあてはまるが、(2)または(3)に当てはまらない場合、雑所得となります。
個人向け国債購入キャンペーン
個人向け国債を50万以上購入すると、もれなく現金をプレゼントするキャンペーンをある証券会社が実施しました。購入金額が多ければ多いほど、もらえる現金が増えるキャンペーンでした。ただし、入金日までに証券口座を廃止すると現金はもらえません。
よくあるキャンペーンですね。
国税不服審判所は、このキャンペーンで受け取った現金は「役務の対価としての性質を有する」から一時所得ではなく雑所得にあたると裁決しました。*2
本件キャンペーンは、本件証券会社が個人向け国債の10年債あるいは5年債を購入した者に対して、その購入額の多寡に応じて、一定の要件を満たす者に現金をプレゼントするというもの(中略)であるから、本件収入は、偶発的に発生したものではなく、請求人が、一定の期間に個人向け国債を購入し、本件キャンペーンの景品として交付される金員が入金されるまで本件証券会社に開設した口座を維持することなど、本件キャンペーンが適用される要件を満たした結果、交付されたものである。
そうすると、本件収入と上記の行為は密接に関連していると認めるのが相当であり、本件収入は、役務の対価としての性質を有するものと認められる。
この事例では「もれなく」現金がもらえたため雑所得でしたが、
もし「抽選(ただし、購入金額が多いほど当選確率が上昇)」の場合、「偶発的に発生したもの」と認められて一時所得になるのか気になります。
というのは、懸賞や福引きの賞金品は一時所得だからです。*3
ふるさと納税の返礼品
ふるさと納税の謝礼として受ける特産品に係る経済的利益については(中略)法人からの贈与により取得するものと考えられます。したがって、特産品に係る経済的利益は一時所得に該当します。
確かに「法人から贈与された金品」が一時所得の例として挙げられています。(所得税基本通達34-1が根拠)*5
ですが、個人向け国債を買って現金をもらうのと、自治体に寄付をして返礼品をもらうのと何が違うのか私はわかりません。
ふるさと納税の返礼品は「役務の対価としての性質を有しない」のでしょうか。
株主優待券
ふるさと納税の返礼品と同様、株主優待券は「法人から贈与された金品」だから一時所得のようにも思えます。
しかし、所得税基本通達24-2によると株主優待券は雑所得とされています。*6
株主優待券は権利確定日に株式を一定数(例えば100株)持っていることを条件にもらえます。*7
個人向け国債キャンペーンにおける国税不服審判所の考え方を株主優待券に当てはめると、
権利確定日に株式を持っていることが「役務の対価としての性質を有する」から雑所得というのは一応筋が通っていると思います。
そもそも「役務」ってなんだ?
一時所得の定義の「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質」というのがとても難解です。
私は「役務」という言葉がピンとこないので「サービス」と読み替えています。*8
でも、個人向け国債キャンペーンの場合、サービスを受ける側の口座保有者が証券会社にサービスを提供している形になり、どういうこと?と思いました。
定義文の「としての性質」という文言により幅広に解釈されるという説があります。(国税庁の公式見解ではありません。)
「としての性質」は、担税力に即した公平な課税を実現するために「対価」の対象を拡張可能とする明文規定であると解することが合理的であると考える。(上田、2021)
一方で、「としての性質」に特段の意味はないという説もあります。*9
「資産」とは?
「資産の譲渡の対価としての性質」を有しないものは一時所得です。
「資産の譲渡の対価としての性質」を有するものは譲渡所得、山林所得か雑所得とされています。
暗号資産の取引や外貨預金の為替差損益が一時所得ではなく雑所得とされていることから、暗号資産や外貨預金は「資産」なのでしょう。
そして「値上がり益が認められる資産」は譲渡所得、認められない資産は雑所得となっています。*10
「値上がり益が認められる資産」は株式や不動産、金地金など。
「値上がり益が認められない資産」は暗号資産や外貨預金などです。
おわりに
一時所得か雑所得かは非常に微妙な問題です。
特に一時所得と雑所得を並べて比べると、判断基準が何なのかわけがわからなくなってきます。
迷ったら専門家に聞いてみるのが良いと思います。
例えば、国税局の電話相談センターや税理士ドットコムがあります。
すでに一時所得か雑所得かが示されているものはその通りに申告して、所得区分がどちらかが示されていないものはとりあえず雑所得として申告して、多めに払った税金は余計な争いごとを避ける保険料(リスクヘッジコスト)だと割り切るのも一つの考え方かなと思っています。(特に少額の場合は。)
過少申告で罰せられることはあっても、過大申告で罰せられる規定はないと思うので。
参考資料
上田正勝(2021)「所得税法における『対価』の意義について」税務大学校論叢第102号
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*2:(平成30年10月1日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
*4:「ふるさと納税」を支出した者が地方公共団体から謝礼を受けた場合の課税関係|国税庁
*7:会社によっては一定期間(例えば1年以上)継続して保有することも条件に加えている場合もあります。
*8:上田(2021)には「役務行為(サービス)」という記述があります。コトバンク(精選版 日本国語大辞典)によると役務とは「他人のために行なう、種々の労働作業。サービス。」です。