コモディティファンドは全然上がらない
最近コモディティ(商品)の価格が急上昇しています。
1年で2倍に急騰、コモディティー価格の上昇は続くのか|会社四季報Online
この価格上昇を投資に取り入れることはできるのでしょうか。
インデックスファンドの中にコモディティに投資するものがあります。
「SMTAM コモディティ・オープン」と「eMAXIS プラスコモディティインデックス」はブルームバーグ商品指数への連動を目指しており、この指数は23種類もの商品(燃料や金属、農畜産品)の価格を合成して算出しています。
ブルームバーグ商品指数の1991年からの時系列データを仕入れることができたので、少し料理してみたいと思います。
ドル建て指数
以下の図で、BCOMはブルームバーグ商品指数、BCOMTRはブルームバーグ商品指数トータルリターン、BCOMSPはブルームバーグ商品指数スポット価格を示します。いずれもドル建てです。
これらの指数の違いは以下のブログに詳しく説明されています。
finance-gfp.com
スポット(BCOMSP)は現物の取引価格と理解しています。
ブルームバーグ商品指数(BCOM)は「エクセスリターン」で、先物の価格と理解しています。
トータルリターン(BCOMTR)は、先物取引の委託証拠金等から得られる利子収入を加味したものです*1。
普通のファンドはトータルリターン指数への連動を目指します。
さて、指数の30年分の推移を見ると、スポット価格指数(BCOMSP)はブルームバーグ商品指数(BCOM)を常に上回っています。これは先ほど紹介したブログで説明されている通り、ロールコストによるものです。
裏付けとなる資産を保管するのは倉庫を用意するなど手間がかかります。とりわけ畜産物は、いくら冷凍保存できるとはいえ、数年間保存した後市場に出しても売れないだろうと思います。(ワインじゃあるまいし。)
現物特有の手間を省き、価格変動だけを取りに行くために、先物を使うのですが、先物には期限があり、期限が来る前により長い期限の先物に乗り換えていく必要があります。
その際、長期の先物の方が価格が高くなりがちなので、乗り換えで損するというわけです。
(なお、金のETFで現物の裏付けのあるものは、ロールコストがかかりません。)
次に、トータルリターン指数(BCOMTR)はブルームバーグ商品指数(BCOM)を常に上回っています。これは前述の通り利子収入によります。
驚きなのは、1991~2008年までトータルリターン指数(BCOMTR)がスポット価格指数(BCOMSP)を上回っていることです。
この期間はコモディティに投資していると言うよりも債券に投資していると言った方が実態に合っているように思います。
こちらのブログにアメリカの政策金利(短期金利)が載っていますが、当時は4%くらいありました。
金利とインフレ率推移(チャート・変動要因)【①先進国】 - ファイナンシャルスター
2008年以降はほぼゼロ金利になっているため、トータルリターン指数(BCOMTR)がスポット価格指数(BCOMSP)を下回るようになりました。
30年間でスポット価格指数(BCOMSP)は5倍近くなっています。図は2021年5月14日まで描いているのですが、2011年につけた史上最高値を更新しそうな勢いです。
しかし、トータルリターン指数(BCOMTR)は30年で2倍に、ブルームバーグ商品指数(BCOM)はほぼ横ばいになっています。
下図は1年ごとに区切ったパフォーマンスを示します。
まず、図の見方を説明します。
一番左の1991という部分は、1991年始から1992年始までの一年間の対数変化率を示しています。オレンジ色のスポット価格指数(BCOMSP)は10%を越えて下落したものの、灰色のロールコスト(BCOMの対数変化率からBCOMSPのそれを引いた値)がプラスに働いた(収益になった)こと、黄色の利子収入(BCOMTR-BCOM)があったことから、青の点で示されるトータルリターン(BCOMTR)は1991年の一年間ではスポット価格ほど下落しなかったと読み取れます。
では、30年を通してみた印象ですが、ロールコストは多くの年でかかります。(1996年など収益源になることもまれにあります。)
スポット価格がマイナスで、かつロールコストもかかると最悪で、1998、2008、2015年などに起きています。
また、2006、2020年はスポット価格がプラスなのに、ロールコストがかさみ、トータルリターンはマイナスになる、残念な年です。
2005、2007年は、スポット価格の収益がロールコストを大きく上回り、利子収入もあったため、好調な年でした。
余談ですが、こちらのブログを参考に、普通の変化率ではなく、対数変化率を使いました。
対数収益率について 株価リターンの計算~
ブルームバーグ商品指数の1年ごとのリターンの平均(年率換算した30年累積リターンと同義)を下図に示します。
スポット価格指数(BCOMSP)は年率4.6%の上昇、さらに利子収入が2.5%指数を上振れさせた一方で、ロールコストが5.4%も指数を押し下げたことから、トータルリターンは年率+1.7%という結果になりました。
ロールコストが非常に重たいことがわかります。
さらに、ファンドを通じてコモディティに投資しようとすると、信託報酬等が1%ほど載っかりますので、最終的なリターンは1%を切ることが予想されます。
もしブルームバーグ商品指数トータルリターン(BCOMTR)との連動を目指す、信託報酬1%の仮想ファンドが指数算出開始時点からあったら、どんなパフォーマンスになるかを試算したのが下図になります。
円建て指数
次に、「eMAXIS プラスコモディティインデックス」設定来からの基準価額、「SMTAM コモディティ・オープン」の基準価額、それから円建てのブルームバーグ商品指数トータルリターン(BCOMJYTR)を示します。
2015~2016年まではほぼ一緒に推移していましたが、2017~2019年はSMTAMがeMAXISより下方にかい離していました。
2020年前半のコロナショックでSMTAMはなぜかさほど下げず、その後上向いていったので、2020年5月以降はSMTAMがeMAXISより好調です。
調べる手段がないものの、コロナショックのさなか、SMTAMはわざと現金多めにして、つじつまをあわせにいったのかもしれませんし、市場急変で何か他にあったのかもしれません。
どんどん消費される商品に投資する意味はあるか
ブルームバーグ商品指数とは関係ないものの、国内の畜産物の在庫がどれくらいの回転率なのか見てみます。
農畜産業振興機構によると、2020年12月末時点の牛肉の推定在庫は12.5万トン、2020年12月の推定出回り量は8.3万トンでした。
単純計算で1.5か月分(=12.5/8.3)しか備蓄していません。
同様に、豚肉は1.1か月分と、かなり回転が早いことがうかがえます。
2年12月の牛肉生産量、前年同月比3.1%増|農畜産業振興機構
すぐ消費される商品を資産とみなしていいのか、投資対象としての価値はあるのか、疑問に思っているところです。
コモディティのファンドを少し持っているのですが、どこかのタイミングでスパッと売ってしまうかもしれないなと。もう少し検討してみたいと思います。
まとめ
過去30年間のブルームバーグ商品指数の動きをみると、スポット価格指数とトータルリターン指数とでまるで違う値動きになっていました。
1991年から2008年までのアメリカの政策金利が高い時期は、利子収入でトータルリターン指数が底上げされましたが、近年はゼロ金利のため、利子収入はほぼありませんでした。
一方、ロールコストは非常に重く、スポット価格の上昇を食い潰しています。
30年間のスポット価格指数のリターンは年率で+4.6%だったのに対して、トータルリターンは+1.7%でした。
さらに、ファンドを保有すると信託報酬等が1%ほど載っかりますので、最終的なリターンは1%を下回ることが予想され、値上がりはほとんど期待できません。
「eMAXIS プラスコモディティインデックス」と「SMTAM コモディティ・オープン」の基準価額を比べると、2017~2019年はeMAXISのほうが基準価額が高く、2020年からはSMTAMのほうが高くなっています。
ブルームバーグ商品指数には、農畜産品のようにどんどん消費されてしまうものが含まれており、資産として残らないものを投資対象とすべきか疑問を感じています。
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