バンガードのETFの経費率が安い理由として、バンガードの特殊な会社構造が挙げられます。
バンガードという会社をファンドが所有し、そのファンドを投資家が所有する。つまり、バンガードの投資家はファンドを通じて間接的にバンガードの株主になるのです。
この説明にいまいちピンときませんでした。
たわら男爵氏は「バンガードは、自社の運用するファンドの純資産額をバンガードの株式の購入資金にしているという特異な所有構造を持つ」と解説しています。
バンガード社は、ファンドの純資産額でバンガード株を買っていた - ４０代でアーリーリタイアしたおっさんが たわら先進国株でベンツを買うブログ
VTの運用報告書（日本語版）を見てみます。
バンガードからの要請に応じて、当ファンドは、純資産の0.40%までバンガードの資本に投資することができる。2021年10月31日現在、当ファンドはバンガードの資本に対して1,101,000米ドル拠出しており、この額は当ファンドの純資産の0.01%未満およびFSA*1に従って受領したバンガードの資本の0.44%に相当する。当ファンドの受託者および役員は、それぞれ、同時にバンガードの取締役および従業員である。
Vanguard Total World Stock Index Fund 運用報告書（全体版）第14期（2020年11月1日～2021年10月31日）
「資産・負債計算書」にも「バンガードへの投資」という項目に1,101千米ドルとの記載があります。（純資産は34,198,204千米ドル）
たわら男爵氏は、先に引用した記事で、バンガード社のガバナンス（誰が役員を選んでいるのか）に関して問題提起をしています。
この記事ではバンガード社のガバナンスについてわかったことを記します。
Board of directors
Vanguard’s board includes 11 directors; 10 are independent directors ... Vanguard CEO Mortimer (Tim) Buckley serves as chairman of the board.
The Vanguard Funds are overseen by boards of trustees. The same individuals serve on the Vanguard board of directors and the funds' boards of trustees.
（取締役会
バンガードの取締役会は11名で構成され、10名は社外取締役である。（中略）バンガードのCEOであるMortimer (Tim) Buckleyが取締役会議長を務める。
バンガードのファンドは受託者会により監督される。同一人物がバンガードの取締役会とファンドの受託者会を務める。）
VTのStatement of Additional InformationのOfficers and Trusteesによると、Board of trustees（受託者会）には４つの委員会があります。
- Audit Committee（監査委員会）
- Compensation Committee（報酬委員会）
- Investment Committee（投資委員会）
- Nominating Committee（指名委員会）
それで、問題はバンガードの取締役なりファンドの受託者をどうやって選んでいるかです。一般的な上場会社であれば、株主に議決権行使書が送られてきて、株主が取締役の信任投票を行います。
どうやら、バンガードの場合は受益者総会（shareholders meeting）が行われ、受託者の信任投票が行われているようです。
Vanguard is asking shareholders of each fund to elect a board of trustees.
（バンガードは各ファンドの受益者に対して受託者の選任を求めている。）
ちなみに、Statement of Additional Informationによると、受益者が提案することもできるようです。
Shareholders are entitled to vote on a matter if ... a shareholder vote is required under the 1940 Act. The 1940 Act requires a shareholder vote under various circumstances, including to elect or remove trustees upon the written request of shareholders representing 10% or more of a Fund’s net assets ...
（ファンドの純資産の10%以上を持つ受益者が受託者の選解任を書面により提案するといった様々な状況下で、受益者の投票を1940年法は求めている。この場合、受益者は投票権を持つ。）
おそらく米国在住者にはバンガードの受益者総会の通知が届いているのではないでしょうか。
日本の証券会社を通じて米国株の個別株を持っている場合、株主総会の通知は来ません。しかし、自分で情報を集めて、賛否を証券会社に伝えることで、議決権を行使できる場合があるようです。
バンガードのETFについても、米国株の個別株と同様でしょう。
株主総会の議決権について
当社では、お客さまからお預りしている株式を、外国証券取引口座約款の第15条（外国証券の保管、権利及び名義）の規定により、お客さまから保管の委託を受け、一括して現地の保管機関に当社名義で保管を行っております。よって、お客さま名義での議決権は発行されない為、株主総会等にご参加していただくことが出来かねます。
また、議決権行使については、お客さまご自身で株主総会の議案回号の賛否等の意思表示をいただく場合で、お客さま持分において投票が可能な場合は、お客さまの指示に従います。
ただし、お客さまが指示をされない場合には、当社は議決権の行使、または異議の申立てを行いません。
以上をまとめます。バンガードのファンドは資産の一部でバンガードの株を買っています。ファンドの受益者（shareholders）は受託者（trustees）を選任します。受託者はファンドを監督します。そして、受託者はバンガード社の取締役（directors）を兼務します。
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*1:バンガードとファンドの間のファンド・サービス契約
