dice play

インデックスファンド、米国ETFを中心に、日米の個別株にもちょこちょこ投資(サイコロ遊び)をしています。

「グローバル2倍株ファンド(地球コンプリート)」の評価

このファンドについて、2023年3月に再評価した記事があります。
dice.hatenadiary.jp

日興アセットマネジメントの「グローバル2倍株ファンド(地球コンプリート)」は「地球2つ分」の投資を行うという触れ込みで、2021年12月に登場した投資信託です。
www.nikkoam.com

山崎元氏が商品開発者と対談した特設ページを設けており、運用会社の力の入れようが感じられます。
www.nikkoam.com



目次

目論見書を読む

まず、交付目論見書を見て、気になったところを引用しつつ、コメントを付けてみます。

「主として日本を含む世界(新興国を含む)の株式に実質的に投資を行ないます。」
株価指数先物取引を積極的に活用することで、純資産総額の2倍相当額の投資を行ないます。」
「当ファンドは、市場規模や流動性、取引規制などの投資環境を考慮して、日興アセットマネジメントが投資可能と判断した世界各国の株式へ分散して投資を行ないます。」

基本的には時価総額を基準にするが、先物出来高が少ないなど取引に適さない国に無理に投資することはしないということです。

「1か国への投資割合は、純資産総額比で100%程度を上限とします。」

2021年末時点でMSCI ACWI指数におけるアメリカの割合は61%なので、単純に2倍すると122%になりますが、このルールにより100%に制限されます。
特定の国に集中すると運用の技術面で問題が生じるのかもしれません。技術的な問題がないとしたら、レバレッジというだけでリスクを取りすぎなのに、さらに一か国集中はリスクをさらに取りすぎという商品開発者の考え方があるのかもしれません。
もし時価総額に忠実に投資したい場合は、100%を超える分についてアメリカ株のレバレッジファンドを買うことで調整することもできるでしょう。例えば、「グローバル2倍株ファンド(地球コンプリート)」と「iFreeレバレッジ S&P500」を8:2の比率で組み合わせるというやり方が考えられます。

「中長期でみると、複利の効果により、「グローバル1倍株」のパフォーマンスとのかい離がプラスにもマイナスにも大きくなる傾向があります。そのため、累積パフォーマンスが2倍になる訳ではありません。」

この仕組みのわかりやすい説明が次の動画にあります。
【資産形成】NISAとつみたてNISA どっちを使う?上級者向けアドバイスも(窪田 真之):12月13日 - YouTube

「NISAとつみたてNISA どっちを使う」という動画の名前なのに、動画の最後にレバレッジファンドの説明があります。指数が前日比で上がると先物をさらに買い、下がると先物を売るという運用をレバレッジファンドは行っており、レンジ相場だと高値掴みの安値売りを繰り返すので、基準価額がどんどん下がっていくのです。

「先進各国の株価指数先物取引においては、買建額に対する為替変動の影響がないものを中心に投資対象とするため、為替変動の影響を受けるのは、主に評価損益分と外貨建証拠金となりますが、先進国株式部分は対円での為替ヘッジを行なうなど*して、為替変動の影響を低減させます。したがって、実質的に為替変動の影響を受けるのは、主に新興国株式部分(米ドル建ての株価指数先物取引など)となるように運用します。
* 米ドル建て資産の部分(ETFや証拠金)と、新興国株価指数先物取引における実質的な米ドル売り(新興国通貨買い)の部分が相殺されることによって、実質的に米ドルについての為替ヘッジを行なった場合と同等の効果が期待されます。」

一般的な為替ヘッジありの外国株式ファンドであれば、投資家から受け取った日本円を売って外貨を買い、その外貨で株式を買い、同時にFXで外貨を売り建てる(日本円を買うのと同等)という取引をしているという理解です。外貨の売り建てにより、「円の金利が為替ヘッジを行なう通貨の金利より低い場合、この金利差に相当するヘッジコストが発生します。」(目論見書より。)ヘッジコストはFXで言うスワップポイントの支払いのようなものです。
ところが、このファンドの場合、新興国株の先物買いと米ドル建て現物資産の相殺によって、部分的にヘッジコストがかからない可能性があります。
ただ、私は先物取引を経験したことがないので、細かい文言に今一つ理解できないところがあります。(「ヘッジコストがかからない」が間違っているかも。)

「当ファンドにはベンチマークはありません。」

運用会社の見解は以下の通りです。
「現時点では流動性の問題などで組入れられないエリアの株式なども、将来的に組入れてコンプリート(完成)できる点がユニークな特徴です。」(特設サイトより)
普通、為替ヘッジ付き指数はフルヘッジ(外貨建て資産すべてに為替ヘッジをかけること)を前提にして提供されるでしょうから、先進国株式のみ為替ヘッジをかけるという特殊な運用を行う当ファンドにベンチマークを設定するのは難しいとも思います。

信託報酬は年率0.3993%(税込)で、レバレッジファンドで最安です。(参考:「iFreeレバレッジ S&P500」は0.99%)

投資リスクの項については、先物取引に特有のリスクを見てみます。基礎となる指数と違った動きをする可能性を認識する必要があります。

価格変動リスク
株価指数先物取引にかかる権利の価格は、株価指数の計算根拠となる対象企業の株価や、株価指数を構成する株式市場の値動きに影響を受けて変動します。また、国内および海外の他の株価指数の値動きに連動して変動することもあります。ファンドにおいては、株価指数に関係する株式および株価指数を構成する株式市場の値動きに予想外の変動があった場合、株価指数先物取引にかかる権利の価格にも予想外の変動が生じる可能性があり、重大な損失が生じるリスクがあります。


デリバティブリスク
・金融契約に基づくデリバティブとよばれる金融派生商品を用いることがあり、その価値は基礎となる原資産価値などに依存し、またそれらによって変動します。デリバティブの価値は、種類によっては、基礎となる原資産の価値以上に変動することがあります。


レバレッジリスク
株価指数先物取引などを積極的に用いてレバレッジ取引を行ないます。したがって、株式の影響を大きく受けます。

月報を読む

次に、初めての月報(2021年12月末現在)を見てみます。
ETFを61.2%、現金その他(先物取引の証拠金を含む。)を38.8%とし、計100%(=純資産総額)です。さらに先物を152.2%買い建てているため、現物取引であるETFと合わせて213.5%です。200%を超えて建玉を持っていることになります。目論見書によると「実際の運用は、純資産総額合計の200%程度となるように行なうため、常に200%となるものではありません。」とありますので、十数パーセントのずれは許容範囲ということです。

個別の銘柄の内訳は以下の通りです。

種類 銘柄名 地域 純資産総額比
先物 米国株先物ミニ(S&P500) 米国 65.4%
先物 新興国先物ミニ(MSCI EM) 新興国 35.4%
先物 欧州株先物(ユーロ・ストックス50) 欧州 26.4%
先物 英国株先物(FT100) 英国 13.6%
先物 カナダ株先物(S&Pトロント60) カナダ 6.9%
先物 オーストラリア株先物(SPI200) オーストラリア 4.6%
ETF VANGUARD TOTAL STOCK MKT-ETF 米国 33.1%
ETF VANGUARD RUSSELL 2000-ETF 米国 9.2%
ETF 上場インデックスTOPIX 日本 18.9%
現金その他 38.8%


国別の比率は以下の通りです。

国・地域 グロ倍 (A) ACWI ETFの2倍 (B) 差異 (A-B)
米国 107.7% 122.8% -15.1%
日本 18.9% 10.9% +8.0%
欧州 26.4% 16.2% +10.2%
英国 13.6% 7.2% +6.4%
カナダ 6.9% 5.8% +1.1%
オーストラリア 4.6% 3.4% +1.2%
その他の先進国 0.0% 11.4% -11.4%
新興国 35.4% 22.2% +13.2%
合計 213.5% 200.0% +13.5%

本当はACWI指数の国別データがあればよかったのですが、見つからなかったので、ETFのACWIで代用します。表の「差異」はグローバル2倍株ファンドの組入比率からACWI ETFの組入比率を2倍した値を引くことで求めています。

まず気づくのは、目論見書では一か国の上限が100%程度とされていますが、実際には米国が107.7%と少しはみ出していることです。

MSCI新興国株式指数の先物を使っているため、新興国は取りこぼしがない一方、先進国は個別の国の先物を使っているため、取りこぼしている国があります。米国、欧州、英国、カナダ、オーストラリアが投資対象です。欧州はEURO STOXX 50先物を使っているため、対象となっているのは8か国(ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン)のみです。スイス、デンマークスウェーデンノルウェーポルトガルオーストリアは対象外です。また、香港、シンガポールイスラエルニュージーランドも対象外です。先進国を網羅するより新興国を網羅するのが簡単というのは意外でした。

日本株先物を使わず、ETFを2倍の比率持つというやり方をしています。米国株はETF現物取引先物取引を併用しています。その他の国(地域)は先物のみ。

為替ヘッジについて、目論見書の記述を振り返ると、
「米ドル建て資産の部分(ETFや証拠金)と、新興国株価指数先物取引における実質的な米ドル売り(新興国通貨買い)の部分が相殺されることによって、実質的に米ドルについての為替ヘッジを行なった場合と同等の効果が期待されます。」
新興国株価指数先物取引」の部分は純資産総額の35.4%でした。一方、「米ドル建て資産の部分(ETFや証拠金)」のうち米国に投資するETFは42.3%でした。よって、純資産総額の35.4%の部分は自然体で為替ヘッジができているものの、残りの部分についてはFXにより為替ヘッジをしているのだと思います。

競合はオルカンETF

MSCI ACWIに2倍のレバレッジをかけるには「グローバル2倍株ファンド(地球コンプリート)」を買う以外にもやり方があります。それは、信用取引口座を開設し、「MAXIS全世界株式(オール・カントリー)ETF」(2559)を口座の残高の2倍の金額で買い建てることです。例えば、100万円を入金して200万円分の買い注文をするということです。こうすると、長期で持つと指数の2倍にならなくなるというレバレッジファンドの弱点は生じません。しかし、いろいろと注意点があります。
(1)100万円を入金して、2559を200万円分信用買い注文をする場合、建玉の含み損が30%に達すると追加保証金を差し入れるか、ロスカットになります。ロスカットになった場合、残る資金は40万円になります。
(参考)
1分でわかる信用取引32【信用取引のリスク】追証(おいしょう)・追加保証金 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
(2)建玉を持っている日数分の買方金利が生じます。(SBI証券楽天証券の場合年率2.8%)

金利負担を軽くするために、100万円を入金して2559を100万円分現物買いし、さらに2559を100万円信用買い注文をする場合を考えます。
これは「信用二階建て」と呼ばれるキケンな取引です。
超ハイリスク!「信用二階建て」がキケンな理由 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア
建玉の含み損が34%に達すると追加保証金を差し入れるか、ロスカットになります。ロスカットになった場合、残る資金は33万円になります。
金利の率は変わりませんが、額は半分になります。

2020年2月~3月のコロナショックでは30%を超える下落に見舞われたので、上述の「オルカン二階建て」をやってしまうと、お財布がすっからかんになってしまうなんてことが大いにありえます。
リーマンショック級の下落を想定して、70%下がるとすると、2559の現物100万円を持って、2559を27万円分信用買い(すなわちレバレッジ1.27倍)でもロスカットに達します。

レバレッジファンドは長期で持つと指数の2倍にならなくなるからダメとよく言われますが、オルカン二階建てよりはマシですね。

いや、バカなことを考えた。

まとめ

「グローバル2倍株ファンド(地球コンプリート)」は先物を活用して「地球2つ分」に投資する(=純資産総額の2倍相当額を世界の株式に投資する)レバレッジファンドです。忠実にMSCI ACWIの2倍というわけではない、アクティブファンドです。一部の先進国には流動性の問題などで投資ができていません。信託報酬は年率0.3993%(税込)で、レバレッジファンドの中では最安です。
「MAXIS全世界株式(オール・カントリー)ETF」(2559)を信用口座で買うことにより全世界株式にレバレッジをかけて投資ができますが、金利負担が重いほか、3割下落すると追証ロスカットの憂き目に遭いますので、キケンです。



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