ハイブリッド証券(債券と株式の中間的な存在)への投資方法
シリコンバレー銀行の取り付け騒ぎがクレディスイスに飛び火しました。
かねてよりクレディスイスの経営はまずいのではと言われていました。
シリコンバレー銀行の破綻の報を聞いて不安になったクレディスイスの顧客がこぞって預金を引き出し、経営が傾きました。
スイスで同業を営むUBSがクレディスイスを救済買収することの引き換えに、クレディスイスが過去に発行したAT1債が全損となりました。
AT1債を初めて聞いたのですが、CoCo債の一種だそうです。
CoCo債(ここさい)と聞くと、カレー屋やファミレスのような語感ですが、当然無関係です。
クレディスイスとクレディセゾンも関係ありません。
AT1債(CoCo債)はハイブリッド証券の一種です。
目次
- ハイブリッド証券について
- ハイブリッド証券に投資するファンド
- 投資対象
- 投資地域
- 費用
- 目論見書のリスクの記載に課題あり
- クレディスイスの影響
- 償還予定日
- 価格の推移
- ボラティリティ
- ハイブリッド証券をポートフォリオにどう組み入れるか
- まとめ
ハイブリッド証券について
下図はハイブリッド証券の概念を示しています。*1
ハイブリッド証券は債券と株式の中間的な性質をもつ証券です。
劣後債、優先証券、CoCo債(偶発転換社債)などが当てはまります。
優先証券は優先株式と優先出資証券の総称です。優先株式は株式会社が発行し、優先出資証券は株式会社以外の法人が発行します。
ハイブリッド証券は、経営が行き詰まったときに弁済順位(お金が返ってくる可能性)が普通社債より低くなる代償として、平時に普通社債より高い金利が得られます。
また、上図の通り、ハイブリッド証券の中でもCoCo債の弁済順位は低く、劣後債は高いです。
CoCo債は「手りゅう弾が付いた高利回り投資と表現されることが多い。」*2とのこと。
このたび、クレディスイスの手りゅう弾が爆発しました。
CB(転換社債)もハイブリッド証券の一種です*3が、記事が長くなるので、今回はとりあげません。
ハイブリッド証券に投資するファンド
個人も投資信託を通じてハイブリッド証券に投資できます。
SBI証券で取り扱っているファンドをざっと調べた限り、以下のファンドがあります。
- グローバルCoCo債ファンド
- グローバル・ハイブリッド・プレミア
- ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド
- ピムコ世界金融ハイブリッド証券戦略ファンド
- ハイブリッド証券ファンド
- グローバル・ハイブリッド証券ファンド
- ドイチェ世界コーポレート・ハイブリッド証券ファンド
- 日本金融ハイブリッド証券オープン
- iShares優先株式&インカム証券ETF(PFF) …米国上場ETF
- グローバルX 米国優先証券 ETF(PFFD、2866) …米国上場ETFと東証上場ETFがあります。
日興アセットマネジメントの「グローバル・ハイブリッド・プレミア」は「グローバルCoCo債ファンド」と中身が同じ*4です。「グローバル・ハイブリッド・プレミア」は「グローバルCoCo債ファンド」と比べて純資産総額が少なく、信託報酬率も同等の水準で、積極的に投資する意義が見当たらないので、以下では同ファンドには触れません。
SBIアセットマネジメントの「ピムコ世界金融 ハイブリッド証券戦略ファンド」は「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」と実質的な投資対象が同じ*5ですが、ドル円のカバードコール戦略*6も組み合わせています。本稿ではハイブリッド証券への純粋な投資を考えたいので、以下では「ピムコ世界金融 ハイブリッド証券戦略ファンド」には触れません。
PFF,PFFD,2866はインデックスファンド、他はアクティブファンドです。
アクティブファンドについては、為替ヘッジの有無や決算頻度がいろいろなコースが用意されていますが、比較しやすいように円ヘッジで決算頻度の少ないコースで比べます。
投資対象
ハイブリッド証券にいろいろな種類があるので、一口にハイブリッド証券に投資するファンドと言っても、実際の投資対象は様々です。下図は資産別の配分比率を示します。(2023年2月度の月報より作図)
「iShares優先株式&インカム証券ETF」(PFF)はもっぱら優先証券に投資します。
「グローバルCoCo債ファンド」は名前のとおり8割以上がCoCo債への投資です。
「グローバル・ハイブリッド証券ファンド」と「ドイチェ世界コーポレート・ハイブリッド」はほぼすべて劣後債への投資です。
「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」と「ハイブリッド証券ファンド」はCoCo債、優先証券、劣後債の3種類に分散投資しています。ただし、両者で配分比率が大きく異なります。「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」はCoCo債が主体、「ハイブリッド証券ファンド」は劣後債が主体です。
投資地域
投資地域もファンドにより大きく差があります。
PFFはほぼアメリカです。
「グローバルCoCo債ファンド」はヨーロッパだけです。
「日本金融ハイブリッド証券オープン」は日本だけです。
他のファンドは様々な地域に分散しています。
費用
総経費率は高いです。2%くらいかかるファンドがざらです。
欧米の資産運用会社のファンドを買う形式がほとんどですので、費用がかさみがちです。
その中でも「ドイチェ世界コーポレート・ハイブリッド証券ファンド」はグループ会社に実質的な運用を託しているからかやや安め(それでも総経費率は1.34%)でした。
「日本金融ハイブリッド証券オープン(毎月分配型)」の総経費率が0.96%と安めになっているのは、投資先を日本の金融機関に限定して、外部に運用を委託していないからだと思います。
経費率0.45%のPFFがすごく安く見えます。
ちなみに、図に示していないものの、PFFと投資対象がほぼ同様である「グローバルX 米国優先証券 ETF」(PFFD)の総経費率0.23%が最安です。
2886(PFFDの東証上場版)の総経費率は0.26%です。
図は交付運用報告書に記載の総経費率を示します。投資先ファンドの費用が明示されていない(委託会社の信託報酬に含まれている)場合、委託会社の信託報酬を2で割った値を便宜的に投資先ファンドの費用として図に示しています。
図を見ると、投資先ファンドの費用より国内の委託会社・販売会社の報酬のほうが大きいファンドが散見されます。私はあまりいいことだと思いません。
ハイブリッド証券というニッチな投資対象を個人投資家に教育して買わせるのはコストがかかるというのは理解できます。
しかし、目論見書等の作成や販売員の説明は、ハイブリッド証券の売買と比べると間接的な業務であり、こうした業務に高い報酬を払いたくないというのが正直なところ。
目論見書のリスクの記載に課題あり
一般的にハイブリッド証券は弁済順位が普通社債より低く、普通株式より高いとされています。
しかし、今月(2023年3月)に起きたクレディスイスの経営危機では、AT1債(CoCo債)が全損となる一方、普通株式は大幅に割引されてUBS株に交換されるとのことです。
一般論と違い、弁済順位が逆転しました。
このことに交付目論見書で言及していたのは「ハイブリッド証券ファンド」と「ドイチェ世界コーポレート・ハイブリッド証券ファンド」でした。
CoCo債の組入比率の高い「グローバルCoCo債ファンド」「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」では言及しておらず、リスクの記述が不十分です。
現実に起きたリスクなので、次の目論見書の更新時に弁済順位が逆転する可能性を追記すべきです。
クレディスイスの影響
「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」は3月16日時点でクレディスイスのAT1債を2.32%組み入れていました。同ファンドは今後も同社のAT1債の保有を継続する方針とのこと。
「グローバルCoCo債ファンド」は3月14日時点でクレディスイスのAT1債を0.14%、シニア債*7を2.7%組み入れていました。同ファンドは、ここ数年のクレディスイスの不祥事を踏まえ、AT1債からシニア債へと切り替えているとのこと。
償還予定日
下記のファンドが来年(2024年)に償還を予定しています。
・グローバルCoCo債ファンド
・ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド
・ハイブリッド証券ファンド
・グローバル・ハイブリッド証券ファンド
運用期間を延長する可能性もありますが、現在金融不安が広がっているので、予定通り償還されるかもしれません。(下手すると繰上償還もあるかも。)
現在、金融市場が荒れに荒れている中、震源地に飛び込むのは自殺行為かもしれません。ほとぼりが冷めるまで待つのが良いかもしれません。が、そのころにはファンドが償還予定日を迎えるというオチが待っています。投資対象としては適切ではないかもしれません。
価格の推移
下図は2023年初来の推移を示します。*8
PFFは3月9日から急落しました。PFFの組入比率の3分の2はアメリカの金融機関であり、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻の影響を受けているのだと思います。
CoCo債を多く組み入れている「グローバルCoCo債ファンド」と「ニッセイ世界ハイブリッド証券戦略ファンド」は3月14日から値崩れしました。クレディスイスが不安視され始めたころです。
他のファンドは劣後債を主に組み入れており、ここ数週間の騒動の影響をあまり受けていないようです。
ボラティリティ
PFFのボラティリティ(値動きの激しさ)は15%でした。金融株のボラティリティが25%くらいあるので、それに比べればゆるやかな値動きです。
他のファンドは8%未満となっており、普通の債券並みかちょっと高めのボラティリティとなっています。
ハイブリッド証券をポートフォリオにどう組み入れるか
ハイブリッド証券の投資家の多くは高い利回りを求めていると思います。
しかし、私は分散投資マニア、有価証券コレクターと言ってもいいかもしれません。
もうかるかどうかはさておき、いろんな資産に資金を投じてみたいと思っています。自分のお金がいろいろなところに出稼ぎに行ってもらいたい。自己満足です。
しかもオルカンを買うのと同じノリで買うことができます。*9(ハイブリッド証券を買うのに口座開設が必要なら買わないな。)
そこで、高利回り追求ではなく分散投資追求の観点からハイブリッド証券のファンドを考えてみます。
リスクパリティ(等価)の考え方だとリスクの高い証券ほど組入比率を下げることになります。
ハイブリッド証券は普通の債券よりリスクが高い(法的弁済順位が低い)ですので、普通の債券を持ったうえで、トッピングとしてハイブリッド証券を少し持つのが良いように思います。
また、ハイブリッド証券の中でもリスクが高い順にCoCo債、優先証券、劣後債となっています。
もし一本のファンドでハイブリッド証券に投資するなら、劣後債が多めでCoCo債が少なめのファンドが良いように思います。
そうすると、アセットマネジメントOneの「ハイブリッド証券ファンド」がバランス良さそうです。
CoCo債、優先証券、劣後債の値動きが違うので、それぞれに特化したファンドをバラバラにもつのも手です。
例えば、CoCo債は「グローバルCoCo債ファンド」、
優先証券はPFFかPFFD、
劣後債は三井住友DSの「グローバル・ハイブリッド証券ファンド」
です。
「グローバル・ハイブリッド証券ファンド」は優先株を対象外としているため、PFFとの重複は起きにくいと思います。
「日本金融ハイブリッド証券オープン(毎月分配型)円ヘッジありコース」は日本の金融機関に限定しているので、国際分散投資の観点にはそぐわないと思います。
まとめ
今月(2023年3月)起きたクレディスイスの経営危機でAT1債(CoCo債の一種)は全損(無価値)になりました。
ハイブリッド証券は債券と株式の中間的な性質を持った有価証券です。AT1債に加え、劣後債や優先証券なども含まれます。
ハイブリッド証券を投資対象とするファンドがいくつかあり、これを買うことで個人投資家もハイブリッド証券を保有できます。
投資対象が特定の種類や地域に集中していないかをファンドの月報などで確認する必要があります。
ハイブリッド証券の中でも弁済順位の低いCoCo債は少なめに、弁済順位のやや高い劣後債は多めに持つのがいいと思います。
当然、ハイブリッド証券より弁済順位の高い普通の債券を十分に持つのが前提です。
AT1債を多く組み入れているファンドにおいて、交付目論見書のリスクの記述は必ずしも十分ではなく、改善の余地があります。
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*1:アセットマネジメントOneの「ハイブリッド証券ファンド」の交付目論見書より
*2:クレディ・スイスのCoCo債、なぜ価値を失ったのか-QuickTake - Bloomberg
*3:クレジット⑤ 〜クレジット投資の種類③ : ハイブリッド証券(1)
*5:ピムコ バミューダ キャピタルセキュリティーズ ファンド
*6:交付目論見書を読む限り、仕組預金に似ているように見えます。
*8:アクティブファンドは投信総合検索ライブラリーの基準価額と分配金のデータをもとに分配金再投資基準価額を推計。PFFはアメリカYahoo Financeの調整済み終値(ドル建て)
*9:売買手順が変わらないという意味です。