特定口座からNISA口座に移し替えないほうがいい場合
前回の記事では、特定口座で課税されても売却して、NISA口座で買い直したほうがお得という考え方を紹介しました。
この前提として、将来の株価は今より上がるという条件があります。
一般的に株式の期待リターンは5%程度と言われていますので、長期であれば将来の株価は今より上がる可能性は高いと思います。特にシン・NISA*1口座で保有した金融商品は生涯持ち続けられるので、これから景気後退期が襲っても、いずれ株価が上がるだろうと期待できます。
しかし、最悪の場合も一応検討しておいたほうがいいと思ったので、記事にします。前回の記事を否定するようであまり気持ちのいいものではありませんが。
最悪のシナリオ
例えば、こんな主張があります。
この記事ではつみたてNISAを酷評しています。
つみたてNISAは非課税期間が20年ですから、つみたてNISAの否定は今後20年株価が上がらないことを意味します。
(株価が上がらない前提として今後20年物価も政策金利も高止まりするという見立てになっていますが、果たしてそれが当たるかどうかは定かではありません。)
話が脱線したので元に戻します。
将来の売却時に、今の含み益も消え去り、元本割れするという最悪のシナリオを考えてみます。
このシナリオで、特定口座で持ちっぱなしの場合と、今利益を確定して所得税を払ってNISA口座で買い直す場合の比較をします。
このとき、前回の記事における数式をいじる必要があります。
特定口座で持ちっぱなしの場合、元本割れなので売却時に課税されません。そのため、課税を考慮したAではなく、課税を考慮しないaを使います。
(NISAに乗り換えた場合の資産額)ー(特定口座で持ちっぱなしの場合の資産額)
=B-a
={x+e*(1-s)}*(1+r)^t - (x+e)*(1+r)^t
=-e*s*(1+r)^t
となります。(e>0, s>0, -1<r<0だから)B-aはマイナスになります。
将来株価が下がって元本割れになる場合は、特定口座で持ちっぱなしの場合のほうがNISAに乗り換えるよりましだったということになります。
投資元本xを100万円、現時点の含み益eを10万円、税率sは今後も20.315%、将来のリターンrを-1%とした場合の資産推移のシミュレーション結果は下図の通りです。10年後の売却時に、特定口座で持ちっぱなしの場合は資産額が99万円、NISAで買い直した場合は98万円となり、特定口座で持ちっぱなしの場合のほうが資産額は多くなります。
次に悪いシナリオ
将来売却時に株価は今より下がるが、さすがに元本割れまではいかず、今の含み益が多少しぼむシナリオを考えます。この場合、数式は前回の記事から変える必要はありません。
投資元本xを100万円、現時点の含み益eを10万円、税率sは20.315%という条件は変えずに、将来のリターンrを-0.5%とした場合の資産推移のシミュレーション結果は下図の通りです。
10年後の売却時に、特定口座で持ちっぱなしの場合は資産額が104万円、NISAで買い直した場合は103万円となり、特定口座で持ちっぱなしの場合のほうが資産額は多くなります。
楽観シナリオ
最後に、前回の記事で想定した、将来の株価は今より高いだろうというシナリオのシミュレーション結果を載せます。
投資元本xを100万円、現時点の含み益eを10万円、税率sは20.315%という条件は変えずに、将来のリターンrを+4%としました。NISA口座で買い直した場合、NISA口座で運用している間は特定口座で持ちっぱなしの場合に比べて資産額が少ないですが、売却時点で大小関係が逆転します。
おわりに
数十年の長期投資では元本割れの確率が下がっていくはず*2ですので、私は期待通り楽観シナリオが実現する未来を願います。
しかし、期待が裏切られる場合も頭の片隅に置いておきたいと思います。
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*1:令和5年度与党税制改正大綱で示された2024年に始まる新しいNISA制度の見直し案の俗称の一つ。岸田NISAとか新生NISAといった俗称も見られる。
*2:「損失回避の法則」に従えば投資はリスクより元本割れ確率で議論した方が分かりやすい | 社畜がインデックス投資で資産を築く