インデックスファンドMLPの評価
VTI(バンガード全米株式ETF)はほぼすべてのアメリカ株に投資するETFですが、VTIですらMLP (Master Limited Partnership)は投資対象に含みません。このMLPを投資対象とするインデックスファンドがあります。日興アセットマネジメントの「インデックスファンドMLP」(以下、当ファンド)です。
MLPとは
MLPは石油版REITのような存在です。当ファンドの交付目論見書(投資信託説明書)によれば、「MLPの多くは、主として、原油や天然ガスなどのパイプラインや貯蔵施設といったエネルギーインフラ関連事業に投資を行ない、パイプラインや貯蔵施設の利用料などを収益源としています。」「MLPの多くは、投資対象としている主力事業の収益構造が安定していることなどを背景に、キャッシュフローが安定する傾向にあります。」
MLPは石油のサプライチェーンの上流(原油の採掘)や下流(石油製品の販売)ではなく、中流に位置します。日本でもごくわずかに石油が採れますが、パイプラインや貯蔵施設はINPEXのような鉱業を営む会社が持っています。MLPがExxon Mobilなどの石油企業から独立しているのは特徴的な仕組みです。
当ファンドのベンチマーク(連動目標指数)であるS&P MLP指数の時価総額は203十億ドルです。一方、VTIのベンチマークであるCRSP U.S. Total Market Cap Indexの時価総額は48,157十億ドルです。VTIを100とするとMLPは0.4という規模になります。
インデックスファンドMLPの概要
法令にひっかかるためか、SBI証券、楽天証券などの外国株式口座で直接MLPを買い付けることはできません。MLPに投資するETFも買えません。個人投資家がMLPを買うには投資信託を介するしかありません。
「インデックスファンドMLP」には一年決算型と毎月分配型があります。純資産額が多いのは毎月分配型のほうです。(毎月分配型の純資産額:71億円、一年決算型:22億円、2022年2月5日現在。)毎月分配型の純資産額が多いのは、MLPは配当利回りが高いためでしょう。交付目論見書によると、2021年5月末現在、MLPの利回りは7.8%に対して、米国REITは2.9%、米国株式は1.3%です。以降は説明の便宜上、一年決算型を取り上げます。
MLPに投資するファンドはいくつかありますが、インデックスファンドはこれだけです。
「インデックスファンドMLP」はS&P MLP指数への連動を目指すとしていますが、組入比率を見ると指数への厳密な追従は目指していないように見えます。
当ファンドは個別のMLPを買い付ける他、MLP指数に連動するETNやETFも買い付けます。2021年11月現在の組入比率を見ると、73.1%がETFまたはETN、残りが個別のMLPとなっています。最も組み入れ比率の大きい銘柄はAlerian MLP ETF(AMLP)で、37.0%を占めます。ベンチマークはAlerian MLP Infrastructure Indexです。組み入れ比率第二位、第三位もS&P MLP指数とは違う指数への連動を目指すETNとなっています。S&P MLP指数に連動するETNの組入比率は17.5%に過ぎません。
下表は組み入れ上位10銘柄を示します。
# | 銘柄名 | Ticker | 経費率 (%) | 指数 | 組入比率 (%) |
1 | ALERIAN MLP-ETF | AMLP | 0.90 | Alerian MLP Infrastructure Index | 37.0 |
2 | ETRACS ALERIAN INF-ETN 0% 2040/4/2 | MLPB | 0.85 | Alerian MLP Infrastructure Index | 9.4 |
3 | JPM ALERIAN MLP INDX-ETN 0% 2024/5/24 | AMJ | 0.85 | Alerian MLP Index | 9.2 |
4 | IPATH S&P MLP-ETN 0% 2042/12/15 | IMLP | 0.80 | S&P MLP Index | 9.1 |
5 | CS S&P MLP IDX-ETN 0% 2034/12/4 | MLPO | 0.95 | S&P MLP Index | 8.4 |
6 | ENTERPRISE PRODUCTS PARTNERS-LP | EPD | 6.1 | ||
7 | ENERGY TRANSFER-LP | ET | 4.5 | ||
8 | SUNOCO LP-LP | SUN | 2.8 | ||
9 | PLAINS GP HOLDINGS LP-CL A-LP | PAGP | 2.6 | ||
10 | BLACK STONE MINERALS-LP | BSM | 2.5 |
もっともAMLP(インデックスファンドMLPの組入比率第一位)はIMLP(S&P MLP指数への連動を目指すETN)と似たような値動きをします。また、VDE(アメリカのエネルギー株)とも似たような動きをします。
AMLPはMLP指数に連動するETNやETFの中で最も純資産残高が多いため、流動性リスクを下げるためにあえてAMLPを買っている可能性があります。ETF.comによると、AMLPの純資産残高は6十億ドルに対して、IMLPは12百万ドルで、AMLPはIMLPの500倍近いです。
当ファンドはアメリカでシェール革命が盛り上がった2014年11月に設定されました。設定から半年までは話題性もあって資金が流入しましたが、基準価額が下がり始めた2015年6月からいったん資金流入が途絶えます。2016年1月には基準価額が5千円(設定来比50%減)を割り込む局面になり、その後数か月は資金が流入したものの、その後はじわじわ流出していました。コロナショックのあった2020年3月~4月には基準価額が一時3千円を割り込む局面がありましたが、現在は6千円台で推移しています。
以上述べたように、非常に荒っぽい値動きをするファンドです。モーニングスターによれば、5年間の標準偏差は年率で41%にもなります。ちなみに「上場インデックスファンド米国株式(S&P500)」の標準偏差は16%なので、米国株式より2.5倍も値動きが激しいことになります。
目論見書には「MLPの多くは、投資対象としている主力事業の収益構造が安定していることなどを背景に、キャッシュフローが安定する傾向にあります。」と書いてあります。気を付けなければいけないのは、安定しているのは市場での取引価格ではなくキャッシュフローなのです。価格をEPS(一株利益)とPER(株価収益率)のかけ算に分解すると、EPSは安定しているが、PERには言及していないのです。
費用については、概算で1.9%程度です。信託報酬が税込年率0.83%、売買委託手数料が0.10%、その他費用が0.31%でした。(交付運用報告書より。)さらにETF、ETNの費用がおよそ0.6%程度乗っかってきます。(経費率が0.9%程度のETF・ETNがファンドの7割程度を占めるため。)
まとめ
「インデックスファンドMLP」は、個人投資家にはなかなか手の届かないMLPに簡単に投資できる「投信ならでは」なファンドです。MLPは石油の輸送や貯蔵に関する施設に投資する、石油版REITのようなものです。株価指数の定義上MLPは投資対象から外されていることが多く、一般的なインデックスファンドはMLPに投資していません。また、個人がMLPの個別銘柄を直接買い付けることは困難です。
注意点としては、値動きが激しいこと、エネルギー株と似たような動きをすること、市場規模が小さいこと、費用が高いことです。
よって、「インデックスファンドMLP」を買うなら、市場の時価総額(VTIの1000分の4)を参考に、ポートフォリオの少額にとどめておくと良いと思います。
参考資料
日興アセットマネジメント「インデックスファンドMLP」
www.nikkoam.com
MLPに投資するETF・ETNの一覧
https://www.etf.com/channels/mlps
日興アセットマネジメント「MLPマンスリー」
www.nikkoam.com
MLPのしくみ
finance-gfp.com
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