dice play

インデックスファンド、米国ETFを中心に、日米の個別株にもちょこちょこ投資(サイコロ遊び)をしています。

全世界株式の期待リターンはいかにして算出されるか

ビットコインの期待リターンはどのように見積もっているか?というネットの疑問に対して、以前の投稿で試行錯誤しました。
結局自分なりの答えは出ず、ビットコインの期待リターンがX%ならポートフォリオビットコインをY%組み入れてもよさそうだという試算を出してお茶を濁しました。
dice.hatenadiary.jp


株式の期待リターンは5~6%と聞きますが、そもそもどうやってそれを導き出しているのか疑問に思い、調べてみました。


目次



バートン・マルキール

バートン・マルキール氏の著書「ウォール街のランダム・ウォーカー」によれば、株式の期待リターンは以下の数式で表されます。(原著第12版の和訳406ページ)

長期平均の株式投資の総リターン=投資時点の配当利回り+その後の配当の期待成長率

ただし、配当成長率は一株利益(EPS)成長率で代替することもあるとの記述あり。
また、短期の場合は、株価配当倍率あるいは株価収益率も重要な要因になるとのこと。


山崎元

山崎元氏のコラムによれば、一例として以下の数式により期待リターンを概算するようなことは一応出来るとしています。(断定的な言い回しを徹底的に避けています。)

(株式の期待リターン)≒(益利回り)+(長期的な利益成長率)
益利回りはPER(株価収益率)の逆数

株式の期待リターンを直接的に推定する決定的な方法はありません。例えば、益利回り(PER[株価収益率]の逆数)に長期的な利益成長率を足し合わせた数字を、「株式が投資家に提供し続ける事が出来る利益」だと考えて、期待リターンを概算するようなことは何重にも仮定を置いた株式リターン推定法として考えることは一応出来ます。例えば、「PERが25倍で益利回りが4%で長期成長率が2%なら期待リターンは6%だろう」とか「PERが12.5倍で長期成長率がマイナス2%なら、やはり期待リターンは6%だろう」といった具合です。

media.rakuten-sec.net


GPIF

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2020年に基本ポートフォリオを変更するにあたり、短期金利、リスクプレミアム、均衡収益率により株式の期待リターンを推計したとしています。(私はよく理解できませんでした。)

基本ポートフォリオの変更について(詳細)

  • 国内株式、外国債券、外国株式の期待リターンは、いずれも短期金利にリスクプレミアムを加えたビルディングブロック法によるものに、市場時価総額に内在すると考えられる均衡収益率を混合することによって推計しました。
  • 計算の基礎となる短期金利の期待リターンは、 金融市場におけるイールドカーブに基づき推計したものを使用しました。
  • 均衡収益率とは、各資産のリスク・相関係数及びグローバル市場の時価総額を用いて、市場から示唆されるリターンを逆算したものです。
  • ビルディングブロック法とは、各資産の期待リターンを短期金利の期待リターンとリスクプレミアム(リスクの対価とみなされる部分)に分解し、それぞれを推計した上で合算することによって、各資産の期待リターンを推計する方法です。なお、リスクプレミアムの推計にあたっては政策ベンチマーク等の過去データを用いました。

www.gpif.go.jp


GPIFの推計結果は下表のとおり。

GPIFの期待リターン、リスク、相関係数の推計結果

時価総額を使って、国内株式と外国株式を合成して、全世界株式の期待リターンとボラティリティを求めると次の通りです。

期待リターン  7.1%
ボラティリティ 24.3%

なお、短期金利を無リスク金利とみなしています。
2022年3月末のTOPIX時価総額は428兆円、MSCI ACWI(除く日本、円ベース)の時価総額は7,597兆円でした。よって、
日本株式:外国株式=5%:95%

上の表のデータを使って、国内株式と外国株式の配分比率の最適化計算をしてみます。

最小分散ポートフォリオ
 日本株式:外国株式=60%:40%
リスクパリティ戦略
 日本株式:外国株式=52%:48%
シャープレシオ最大
 日本株式:外国株式=28%:72%

時価総額比に比べて日本株の組入比率が大きくなりました。
興味深い結果です。
GPIFは株式部分について、日本株と外国株を半々にするポートフォリオを目標としています。
リスクパリティ戦略や最小分散と近いため、リスクを落としたポートフォリオを志向しているのかもしれません。


J.P.モルガン

J.P.モルガンの超長期市場予測2022年版(以下、LTCMA2022)では、向こう10~15年先のACWI(MSCI全世界株式指数)の期待リターンを公表しています。
am.jpmorgan.com


Revenue growth, Margins impact, Gross dilution, Buybacks, Valuations, Div. yieldの6つの要因に分けて株式の期待リターンを推計しています。
現地通貨建ての期待リターンを計算した後、日本円建てに換算するという手順で推計しているようです。
ACWIの期待リターンは以下の通り。

日本円建て 3.3%
米ドル建て 5.0%
現地通貨建て 4.7%
 EPS growth +4.0%
  Revenue growth +5.5%
  Margins impact -1.5%
  Gross dilution -2.2%
  Buybacks +2.2%
 Valuations -1.4%
 Div. yield +2.1%

LTCMA2022では、期待リターンが前回の予想から変化した理由については詳しく書いてありますが、期待リターンの根拠となる各要因の定義や推計方法についてはほとんど書いてありません。
元々機関投資家向けの資料なので、「推計方法は当然わかっているよね。」という前提なのだろうと思います。
個人投資家には読み解くのに厳しいものがあります。

一年前のLTCMA2021には各要因について少し記述があります。

Revenue growthはDomestic growth assumption(国内成長予想)とInternational contribution of revenues(海外の売上の寄与)、Sales % GDPの三つからなるとのこと。

MarginsはChange from margin today to target margin(足下の利益率から将来の利益率への変化)

ValuationsはChange from P/E today to target P/E(足下のPERから将来のPERへの変化)

Div. yieldはDividend yield forecast(予想配当利回り
ウォール街のランダムウォーカーでは投資時点の配当利回りになっていることに注意。

Gross dilutionは希薄化*1
Buybacksは自社株買い、でしょう。

LTCMA2021によるとRevenue growth, Margins impact, Gross dilution, Buybacksを合わせてEPS成長率とのこと。

まとめると、以下の式で期待リターンを表していることになります。

(株式の期待リターン)=(EPS成長)+(PER変化)+(配当利回り

現地通貨建てのACWIの期待リターンは4.7%ですが、円高になるとの予測により、日本円建てのACWIの期待リターンは3.3%となっています。

なお、全世界株式のボラティリティを19.2%と想定しています。


ピクテ

ピクテはSecular Outlook 2020で、2020年から向こう5年先のACWI(MSCI全世界株式指数)の期待リターンを推計しています。
www.pictet.co.jp

附表の株式市場別収益率予想(5年)を見ると、以下の式が成り立っているように見えます。
(株式の期待リターン)=(Yield)+(EPS Growth)+(PE Change)

とすれば、配当利回り、EPS(一株利益)成長率、PER(株価収益率)変化の三つの要因を足し合わせることで期待リターンは決まると考えているようです。

ACWIの期待リターンは以下の通り。

円建て 5.2%
米ドル建て 7.5%
現地通貨建て 6.5%
 Yield +2.2%
 EPS Growth +4.4%
 PE Change -0.1%

円建ては筆者推計。日本株のドル建て期待リターンは日本円建て期待リターンに2.3%上乗せされるという計算結果(年率2.3%の円高ドル安を想定)を利用。


まとめ

株式の期待リターンの求め方は様々ですが、以下の式が基本の形の一つのようです。

(株式の期待リターン)≒(配当利回り)+(EPS成長率)+(PER変化率)

J.P.モルガンとピクテはどちらも、配当利回りは2%程度、EPS成長率は4%程度と見ています。
PERについては両者で見立てが異なり、J.P.モルガンは1.4%下落、ピクテは横ばいと予想。
為替については両者とも円高の想定。

結果として、円建て全世界株式の期待リターンはJ.P.モルガンが年率3.3%、ピクテが5.2%と予想。

GPIFの計算結果を時価総額比で合成すると、全世界株式の期待リターンは年率7.1%。

円建て全世界株式の期待リターンは下表のとおり。
なお、GPIFとピクテの値には筆者の推計を一部含みます。

機関 期待リターン ボラティリティ
GPIF 7.1% 24.3%
J.P.モルガン 3.3% 19.2%
ピクテ 5.2% 未推計



ピクテの資料にボラティリティが載っていなかったのが惜しい。
過去実績が載っているだけでも有用なのに。


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